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【華夷秩序】中国の帝国化が領土問題の解決を遠ざけている

【華夷秩序】中国の帝国化が領土問題の解決を遠ざけている

今の中国は再び帝国になろうとしている

習近平は帝国への歩みを進めている。帝国列強からの侵略に怯え、「眠れる獅子」とも揶揄された木偶の坊の姿はそこにはない。中国は100年前の姿からの脱皮を加速させているのである。

広大な領土と豊富な人口を抱えた中国も第二次世界大戦後にすぐに経済大国となったわけではなかった。毛沢東をはじめとする共産党政権下での政策の失敗がそこにはあった。

鄧小平時が改革開放を宣言すると中国はその経済的なポテンシャルを解放し始め、「世界の工場」としての地位を確固たるものとした。経済成長率は二桁に乗り、急激な経済成長を遂げたのである。

近年では中国はイノベーションの分野でも世界のトップを走るようになってきた。「世界の工場」として日本やアメリカで生まれたアイデアを実際に生産する国家=「Made In China」からの転換の真っ最中なのである。

アリババやテンセント、美的集団といった中国企業は今や世界の市場を動かす巨大プレイヤーだ。 国規模でもGDPは今や世界2位。1位のアメリカを抜かすのは時間の問題とも言われている。

このような経済成長を背景に中国政治にも変化が現れている。いまだに中国共産党による一党独裁体制である点は変わらない。しかし、中国共産党のリーダーであり、国家主席でもある習近平氏が国家主席としての任期を撤廃したことは見逃せない。

この任期撤廃は事実上の「皇帝即位宣言」であり、中国が今後「帝国化」する序章にすぎないと見られている。この任期撤廃をはじめとして今の中国には強大な軍事力を背景にした海洋進出など「帝国」を目指す動きが散見される。

それは古き良き中国への回帰であるということに他ならない。しかし、国民国家の原理が働く現在の国際社会において、中国が「古き良き中国」を志向することは、他の国民国家との関係性が悪化することを意味する。「古き良き中国」時代の国際秩序は、とりわけ東アジア世界の国際秩序は、現在の国民国家の原理とは相容れない原理を内包しているからである。その原理とは「華夷秩序」であり、「朝貢ー冊封体制」なのである。

華夷秩序のもとでの東アジア世界

華夷秩序においては中華思想が大きな影響を持つことになる。中国こそがこの世界の中心であり、周辺国は野蛮であるとする思想である。これを元にアジアは中国を中心として一定の平和がもたらされた。それが「華夷秩序」である。

中国がこの世界の中心であるため日本や朝鮮といった周辺国は中国に自らの存在を認めてもらうことが必要となる。そのために周辺国は「朝貢」を行い、中国に貢物をする。その返礼として中国皇帝は朝貢を行なった地域や国家を「冊封」し、その地域の支配者として認めるのである。

この世界の中心である中国皇帝から「お墨付き」をもらったことで周辺国は大きなメリットを得ることになる。それは安全保障上の心配がなくなるということであり、中国との通商も可能となる。

この「華夷秩序」による東アジア世界は中国中心の強権的な世界観であるとして、根強い批判があることも確かだが、近年ではその評価に見直しが図られている。それは中国がその東アジア世界の中で圧倒的なプレゼンスを持つことによって平和が図られていたというものである。

しかし、この世界観の下で「主権国家」という考え方は、まかり通らない。「主権国家体制」における外交関係とはどんなに両国に国力の差があったとしても、対等である。中国が認めたから日本は存在することができるといった片務的な関係がそこには存在しない。華夷秩序とはあくまで中国が世界全体を支配してー陸だけではなく海の世界もーいることが前提の世界観だからだ。

「華夷秩序」の原理が働く中世の東アジア世界とグローバルな現代では国際秩序のあり方も全く異なる。そこで中国が中世の「華夷秩序」の原理を振りかざしている今、そのほかの主権国家はかつての「朝貢国」として振舞ってはいけないし、振る舞うつもりもないだろう。

日本と中国の間に横たわる領土問題。(領土問題は存在しないという日本政府の立場は理解している)それを解決しようと思うと、この現代の「主権国家体制」とかつての「華夷秩序」の矛盾が浮かび上がってくる。

領土問題と華夷秩序はバッティングする

中国は「華夷秩序」のような中国中心の東アジアの世界の復活を画策している。その復活には領土膨張も不可欠な要素である。海の世界、陸の世界を広範囲で中国が支配することによってかつての華夷秩序を復活させることができると考えているのだ。

海の世界では南沙諸島への進出、尖閣諸島への侵入。陸の世界では一帯一路構想。このように中国はその経済力を背景に広大な経済圏、軍事圏を作り出そうとしていることは明らかである。

かつての華夷秩序圏では「領土」のような考え方はなかった。中国が「全部僕らの領土だよ」と言っても誰も何も言わなかった。現代では中国も主権国家だし、日本、韓国、フィリピン、そのほか主権国家体制が確立している。その世界の中で中国が「華夷秩序」の復権を目指すことは主権国家体制で極めて重要な「領土」という考え方を否定することである。

華夷秩序の下で中国が「全部僕の領土なんだもん!!」と言っても他の対等な主権国家は反発する。そこには世界の中心としての「中国」とそれに貢ぐ「朝貢国」の関係はもはや成立しないからである。

中国が強権的な復古主義をとり、他の主権国家の権利を侵害することによって、もたらされるのはかつての「華夷秩序」に基づく東アジアの相対的な安定ではない。中国の挑戦は明確な現代国際社会への挑戦であることは明白である。

中国が過去の栄光にすがり、時代遅れの帝国主義政策を取ることは尖閣の問題を解決することはもちろんのこと、流動的な日中関係をも持続的な落ち込みへのもたらすことになりかねない。

中国が自国の利益を追求するだけではない真の国際社会のリーダーへのステップを上がることを望む。