医者は1人しか救えない

医者は1人しか救えない

「僕は人間一人しか救えない。君にはもっと多くの人を救ってほしい」

これは僕のおじさんの言葉だ。僕のおじさんはお医者さん。寡黙でほとんどしゃべらない職人みたいな人だ。

ただ、好きなアサヒスーパードライを飲んでいると陽気になってきて、口数が増える。

高校1年生の時、僕は進路に迷っていた。文系か理系か。その先の進路はどうするのか。あまりに早い決断タイミングでナーバスになっていた。

あの頃はおじさんとはほとんど会うことはなかったけれど、その時はたまたまお盆の時に会うことができた。

その時もやはりビールを煽りながら、おじさんはゆったりと言葉を紡ぎはじめた。

「僕は手術をする医者だ。これまでたくさんの手術をしてきた。でも満足できなかった。当たり前のことだけど、医者は一回の手術で一人の人間しか救えない」

「6年間、必死に医学部で勉強して、外科に進んだ。僕が進んだのは心臓外科。手術はしんどい。何時間も立ちっぱなしでいろんな人と協力しないといけない。でも救えるのはたった一人だ」

「キミにはもっと多くの人を助けてほしい。僕が今のキミだったら、政治学を勉強してみたい。医学より多くの人を救えるのは政治学しかない」

人は思いがけない時、言葉に救われる。

「思いがけない時」と書いたのは、言葉がやはり言葉はあまりに日常的だから。いつも使っているからこそ、そのありがたみをすぐに忘れてしまう。

しかし、たまたま出会う言葉こそが人生を決める可能性もある。

「医者は一度にひとりしか救えない。でも政治は違う」

このおじさんの言葉は僕を政治学の道に進ませる大きな原動力になった。これからも自分の勉強がいかに社会に役立つのかを考えながら勉強していこう。