EU市民権についてわかりやすく解説

EU市民権についてわかりやすく解説

EU域内の人の自由移動

EUの中ではまず市場統合が行われます。カネ・モノ・サービスに加えて、ヒトの自由移動が可能になったのです。ここでの「ヒト」とはは当初労働者を指しましたが、1972年のパリ首脳会談で「ヒト」の対象を労働者に限らず、市民一般に拡張することが決定されます。

ティンデマンス報告、アドニド報告などを経て信条に基づく権利から、EC諸機関の努力により、ヨーロッパ市民の政治的権利=「市民権」に向けての手続きが整備されていきます。

シェンゲン協定

1985年にルクセンブルクのシェンゲンで締結された協定のことをシェンゲン協定と言います。これは共通国境管理の漸進的撤廃に関して定めたものです。シェンゲン協定は85年のシェンゲン協定及び90年に締結されたシェンゲン実施条約の総称で、これらは EU 条約へと組み入れられました。

シェンゲン協約の締約国はEU加盟国が22ヶ国、EU非加盟国が4ヶ国(アイスランド、ノルウェー、スイス、リヒテンシュタイン)です。

シェンゲン協定の主な内容は3つからなります。1つ目が域内自由移動です。締約国の国民及び合法的に入域した第三国国民の移動の自由が認められています。2つ目が亡命難民申請です。これはシェンゲン協定に契約した1カ国のみが行います。一旦、入国が拒否されると他の国での申請は不可能になります。3つ目が治安に関する措置です。個人情報や盗難車両などの情報はシェンゲン協定情報システムを通じて共有されます。

リスボン条約( EU 機能条約第45条)では労働者の自由移動の確保に関して定められています。

第一項:労働者の自由移動は連合内において確保される。

第二項:この自由移動は雇用報酬その他の労働及び雇用条件に関して加盟国の労働者間の国籍に基づくすべての差別待遇を撤廃することを意味する。

第三項:自由移動は、公秩序、公共の安全または公共衛生を理由として正当化される制限を留保して次の権利を含む。

1 実際の申し出を受けた雇用に応ずる権利

2 このため加盟国の領域内を自由に移動する権利

3 国内労働者の雇用を規制する法律、規則又は行政行為に従って雇用につくため加盟国内に滞在する権利

4 加盟国の領域内で雇用についた後、(欧州)委員会が定める実施規則に規定される条件でその領域内に居住する権利

第四項:この条の規定は公共機関における雇用については通用しない。

EU市民権について

EU市民権の定義と来歴

市民権とは国家が国民の公民的・政治的・社会的権利を保障し、国民は国家への忠誠と義務を果たす総合的な関係のことです。 EU 域内に居住することは、人々にEU 市民権を遵守することを求めます。

1992年に調印されたマーストリヒト条約で初めて EU に市民権が導入されました。それによれば「EU 加盟国の国籍を有するすべての人は連合の市民となり、連合の市民はこの条約によって与えられた権利を享受しかつそれにより課せられた義務を負うことになった」のです。

EU市民権が含まれる権利

しかし、EU 市民権は各加盟国の 市民権に代替するものではなく市民権を補充するものとして考えられています。 EU 市民権に含まれる権利は

  • EU 域内を自由に移動し、居住する権利
  • 居住国の地方選挙と欧州議会選挙に投票、立候補する権利
  • 自国の在外公館が存在しない第三国において他の加盟国の外交領事保護を受ける権利
  • 欧州議会に請願する権利と EU オンブズマンに異議申し立てする権利
  • EU の公用語のいずれかで EU 書記官に書面で質問し同じ言語で回答を受ける権利
  • 国籍、性別、民族、宗教、障害、年齢、性的嗜好によって差別されない権利
  • 欧州委員会に対して同委員会が持つ分野での法案の提出を求める権利
  • EU 書記官とその関係組織の文章へアクセスする権利

です。

2000年にはニースでの欧州理事会 EU 基本憲章が宣言されました。これは全部で6章からなります。この EU 基本権憲章で定められている権利の中でも連帯というものが特徴的です。その中には

  • ストライキを行う権利
  • 情報と協議に関する労働者の権利
  • 家庭生活と職業生活を両立させる権利
  • EU 域内において医療社会保障社会扶助を受ける権利 

があります。

EU市民権を取り巻く問題

様々な権利を認めた EU 市民権ですが、EU 市民権を付与しても EU と市民の間には溝があることが明らかになっています。例えば2004年に調印された欧州憲法条約では、2005年にフランスとオランダが国民投票を行い、この憲法条約への批准を否決しました。他にもマルタではEU 市民権が売買されている事例が確認されています。

まとめ:人と人はつながるか

欧州統合の父であるジャンモネの言葉はこんな言葉を残しています。「我々は国と国ではなく人と人を結びつけようとしているのだ」

その人と人とをつなげるための「市民権」という概念がかえって、アイデンティティの問題やEUの民主的正統性の問題、包摂と排除の問題など複雑かつ解決が難しい問題を多数抱えています。

壮大な歴史的実験であるEUの未来はどこに向かっているのでしょうか。