EUの政策決定とEU市民の関与について

EUの政策決定とEU市民の関与について

本稿はEUの政策決定過程における市民の関与について述べるものである。またその前提として、EUの立法過程についても触れる。EUの立法手続きのシステムがEU市民の立法過程への参画の前提になっているからである。

EUの立法過程について

 EUの立法過程は主に3つのアクターから進められる。欧州委員会、欧州議会、EU理事会である。この中で独占的に法案提出権を保持するのが欧州委員会である。これはEU条約第17条2項に拠る。

 EUの立法過程は通常立法手続きと特別立法手続きの2つからなる。以下の立法プロセスは通常立法手続きの場合である。ほとんどの立法措置が通常立法手続きによって行われる。

 欧州委員会が提出した法案は欧州議会とEU理事会のそれぞれで諮問が行われる。欧州議会とEU理事会の共同決定により法案は可決される。両者がEUでは立法権を所持していることになる。

 EU市民は上で述べた立法に関わる3つのアクターのうち、法案提出権を持つ欧州委員会に働きかけを行うことができる、この権利を「欧州市民イニシアティブ」と呼ぶ。以下、より詳細を述べる。

欧州市民イニシアティブの概要

 欧州市民イニシアティブは2009年12月に発効したEU基本条約・リスボン条約で初めて導入された権利である。欧州イニシアティブはEU条約第11条4項に定められ、加盟国の100万人以上の市民が欧州委員会に対して、EUが持つ政策領域の枠内で適切な法案を提出するように要請することができる。

 EUがもつ政策領域、とりわけ欧州委員会が権限を持つ政策領域の中で欧州イニシアティブの申請は認められている。その政策領域から外れるのがEUの共通外交・安全保障政策である。共通の外交・安全保障政策は全会一致の原則の中で、立法行為の採択が除外されているのだ。

 具体的な欧州市民イニシアティブについての手順に関しては、2011年2月16日付で立法された「市民発議原則」に制定されている。以下で具体的に確認する。

「市民発議原則」で定められた欧州市民イニシアチブの手続き手順

 発議までの手続きは8つの手続きからなる。第一段階として市民委員会が設立され、その代表と副代表が指名される。第二段階として市民委員会が欧州委員会に対して、欧州イニシアティブの登録を要請する。第三段階として、欧州委員会がイニシアティブの登録を認可した場合は欧州委員会がその内容を公表する。第四段階として市民委員会が100万人以上の署名を集める。

第五段階として市民委員会が署名について各加盟国に対して検証を依頼する。第六段階として、各加盟国が有効な署名数を確定する。このプロセスが必要なのは、各加盟国でイニシアティブ発議のための最低限の署名数が定められているからである。第7段階として、市民委員会が欧州委員会にイニシアティブを提出する。最後に欧州委員会がイニシアティブを受けて、市民委員会代表と面会、公聴会を経て、イニシアティブを可決するか否決するかを決定する。可決の場合は実際の法的、政策的内容を公表し、否決の場合はその理由を発表する。

欧州市民イニシアティブの意義

この欧州市民イニシアチティブはEUの民主主義体制を補完する制度として機能を持つ。EUは27の加盟国からなる超国家主体であり、政治体制は代議民主制が基本だ。EUの代議制民主制は欧州議会議員の選出方法に見ることができる。立法機関の一つである欧州議会は加盟国市民の直接投票で選ばれた議員によって構成されている。EUは代議制によって、市民の代表による意思決定を行っている。

その一方、EUの民主主義はその正統性に疑問が持たれる場面が少なくない。なぜなら、代議制を担保する欧州議会が主権国家内における立法府と同等の権限を保持しないのにも関わらず、EU統合が進んでいるからである。すなわち、EUの拡大によって、その民主的正統性が失われる可能性が指摘されているのだ。欧州イニシアティブはこれに歯止めをかけ、EUの代議制民主主義を補完する役割を果たすと期待されている。

EUの民主制の正統性が失われる背景をより詳細に観察すると三つの事情があると考えられている。1つ目が参加型民主主義導入への機運の高まりである。2つ目がEUという超国家的主体の特殊性から伝統的な代表制による正統性は低いものに留まらざるをえないこと。3つ目が政党に対する不信感などから議会選挙の投票率が低下し、代議制の正統性が失われる可能性が指摘されていたからである。(矢部 2011)

以上のように欧州イニシアティブはEU特有の民主的事情を鑑み導入された補完的措置と考えられる。2009年の導入以降、EUが持つ政策領域の中の限りにおいて、EU市民による申請が行われてきた。欧州イニシアティブの歴史は約10年と短く、イニシアティブがEUの民主的正統性の担保を果たすのかについてはさらなる観察が必要であろう。

【参考文献】

  • 庄司克宏(2013)『新EU法 基礎編』、岩波書店
  • EU MAG 「EUの法律はどのように決められていますか?」
  • <http://eumag.jp/questions/f0813/ 最終アクセス:2019年6月25日 20:27)
  • ・EU MAG 「欧州市民イニシアチブとは?」
  • <http://eumag.jp/questions/f0912/ 最終アクセス:2019年6月25日 20:43>
  • ・矢部 明宏(2011)「EUにおける参加民主主義の進展―EU市民発案に関する規則―」
  • <https://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/legis/pdf/02490003.pdf 最終アクセス:2019年6月25日 20:14>
  •  ・THE EUROPEAN CITIZENS’ INITIATEVE
  • <http://ec.europa.eu/citizens-initiative/public/initiatives/ongoing  最終アクセス:2019年6月25日 20:18>