シャープパワーとは何だ?中国と台湾を例に解説!

シャープパワーとは何だ?中国と台湾を例に解説!

この記事ではシャープパワーとは何かについて詳しく解説しています。シャープパワーは比較的最近の概念。中国やロシアがよく用いているとされていますが、その実態はまだまだわかっていません。

今回はそんなシャープパワーについて代表的な事例である中国と台湾の関係をとりあげながら解説しておきます。

シャープパワーとは?

シャープパワーとは

権威主義国家が外国の世論を操作しようと工作を行うための実力

のことです。

アメリカのCIA(中央情報局)の下請け機関・NEDが2017年に提唱した概念です。プーチン政権のロシアや中国共産党が指導する中国が用いる力として考えられ始めました。

相手国に対して自らの力を刺し、浸透し、穿つイメージから「シャープパワー」と名付けられました。

シャープパワーはどんな国に刺さるの?

次にシャープパワーがどのような国に影響を及ぼすのかについてご紹介していきましょう。どのような国がシャープパワーの影響を受けやすいのでしょうか。

体制類型

開放的な自由民主主義国家はシャープパワーの影響力を受けやすくなります。政治・経済面での規制が緩やかな場合、シャープパワーは簡単に外部から侵入し、深く浸透していきます。逆に政治・経済的規制の強い国はシャープパワーにあまり影響されません。

国家求心力の弱さ

国内の政治体制の弱さもシャープパワーが簡単に浸透する大きな要因となります。特に自由民主主義体制かつ政治体制が弱いとシャープパワーは猛威をふるいます。そのような国では権威主義に対して抵抗感が低く、シャープパワーに対する警戒感が弱いからです。

経済的要因

経済を取り巻く環境も確認しなければなりません。外国資本に頼る経済体制や発展が不調な経済体制の場合は経済的規制・対外的規制が緩くなりシャープパワーが侵入しやすくなります。

知的土壌

専門家が少なかったり、シャープパワーの概念が浸透していない場合はシャープパワーが浸透しやすくなります。シャープパワーは知的な環境がどのようなものなのかも関わっています。

シャープパワーは誰に何をする?

対象

シャープパワーの対象は広範囲に渡ります。

  • 財界
  • 政官界
  • メディア・文化(報道関連、出版、各種教育、文化団体)
  • 有識者(学者、文化人、調査員)

などです。これらを通じて一般市民に浸透し、世論の変化を狙います。

内容

シャープパワーの工作内容は

  • 情報操作(プロパガンダ、虚偽情報流布、イメージ演出)
  • 浸透工作(人的・経済的食い込みと取り込み)

などです。選挙に介入したり、反政府的な企業を支援したりなどがシャープパワーが行使される主な場面です。

シャープパワーによる影響が浸透していくと工作対象が弱体化し、分断するため、工作がより簡単になっていきます。

代表事例:中国のシャープパワーと台湾

次にシャープパワーの代表例である中国と台湾の関係について見ていきましょう

中国にとってのシャープパワー

中国にとってシャープパワーは「三戦」の延長線上に考えられています。「三戦」とは

  • 与論戦:国際・対象国世論への工作
  • 心理戦:敵軍民の同様と対中無力感増殖
  • 法律戦:行為の正当化

です。

かつては中国はソフトパワー(文化広報や人的交流)による影響力増大を狙っていましたが、徐々にシャープパワーの行使に方針を切り替えます。同時に浸透工作の拠点の形成と工作・諜報人員の養成を開始しました。

2008年に中国対外宣伝大布局(大外宣)が設立されました。この機関は名目上は国際秩序に貢献し、途上国の味方になることが目的です。

しかし、その実態はシャープパワーの源泉。外国へのプロパガンダ・情報操作を主導しています。

政治的なプロパガンダ以外にも経済面での取り込みと分断を図ろうとします。ビジネスチャンスと投資機会を大量に与え、買収や収賄を繰り返し、分断工作を施します。

シャープパワーの工作対象

中国のシャープパワーの被害に遭いやすい国が以下の国たちです。

  • 途上国:太平洋諸国、アフリカ、中南米など
  • 自由民主主義の定着度が低い国:中南米、東欧など
  • 地政学的に疎遠な国:アフリカ諸国、中南米など
  • 重点的攻略対象:西側同盟内主要国(特にオーストラリア)、台湾・香港

特に途上国に対しては好条件で金を貸し付け、中国に対して借金漬けにしてしまう債務外交を展開しています。

シャープパワーに弱い台湾

中でも台湾は中国からのシャープパワーに非常に脆弱でその影響を大きく受けています。その理由を7つ紹介します。

自由民主主義体制+開放経済体制

台湾は自由民主主義かつ開放経済の体制です。言論と報道の自由が確保され、自由貿易と市場経済のシステムが整備されています。

台湾のシステムは外部から誰にでも参入できるためシャープパワーからの攻撃には非常に脆弱です。

確立しないアイデンティティ

台湾人は自らのアイデンティティが確立していません。自分たちが中国人なのか台湾人なのか。アイデンティティが揺れています。そこで中国は台湾に対して「中国に戻ってきなさい」との言説を強調し、世論の分断を図っています。

経済優先・実利志向の台湾社会は中国に対して過度な反発を抱くことがありません。また未成熟な「台湾」としてのアイデンティティは非常に薄く、民族でも国民でもないため政治的なまとまりとして台湾は非常に弱いものです。

言語・文化的共通性

中国と台湾は言語の壁が低く、工作対象として非常に容易です。共通の伝統文化圏を持つため、違和感なしにフェイクニュースを流したり情報操作をしたりできます。

「弱い環」の拡大

台湾自体が分極化し、社会の亀裂が深まっていることも中国のシャープパワーの侵入を容易にしています。民進党が勢力を伸ばすことで国民党との対立が激しくなりました。結果、台湾は政治的な共同体としての凝集力が低下しているため「弱い環」が拡大していると表現する場合があります。

安全保障上の不安感

台湾と中国は年々軍事力の格差が拡大し、国民の中には不安感が強くなっています。中国はそこに漬け込み、中国と融和することで安心できると強調する工作をしようとします。

対中経済依存

現在の台湾経済は対外投資の半分、輸出の4割を中国に依存している状態のため、世論の中国経済に対する期待が大きく、中国の侵入を容易にしています。

ネット依存体質

台湾社会がネット依存の傾向にあるのもシャープパワーが浸透しやすい原因になっています。台湾では新聞やテレビなどの伝統的なメディアもネット情報に依存するほどです。

政治や選挙に関する情報もネットで獲得するのが一般的なので中国によるネット工作に対して影響をうけやすくなっています。

【補足】蔡英文政権のシャープパワーへの抵抗

蔡英文政権は中国からのシャープパワーに対して対抗策を講じています。台湾人としてのナショナルアイデンティティを再構築することで中国を飲み込まれないようにしています。

新たなアイデンティティを構築する上で新たな歴史観と移行期(日本統治から国民統治への変化)の正義を強調するようになりました。

その中で国民党目線の歴史観や大中国史観を排除しつつ、台湾社会が多元的な移民社会であることが強調され始めました。その結果、台湾の歴史や社会において漢族や大陸中国の要素は相対化されるようになりました。

蔡英文政権に入り中国からの対台湾圧力は強まっています。蔡英文が「92年コンセンサス」の存在自体は認めつつも「一つの中国」に対して曖昧な姿勢を見せたからです。蔡英文の諸改革と「国民創造」の試みは中国共産党からの不信感を買い、2017年からは圧力が台湾に対してかけられました。

軍事圧力、対国交国圧力、非公式関係国圧力、対国際機関圧力、対国際企業圧力などが行われました。

台湾意識の弱体化?

これらの工作をうけて台湾意識はどのようになっているのか?についてですが。自らが台湾人であると答える人は2016年の61.6%から2017年には56.4%になっています。これはここ10年で最大の落ち幅となっています。一方で台湾・中国人の両方であると答える人は6%以上上昇しています。

心情的に反中、台湾ナショナリズムの低下を招く一方で積極的な対中迎合が増えています。中国に対して抵抗感を覚える人も少なくなり、特に青年層が中国に迎合する傾向が強まっていると言えるでしょう。

安保上の不安感を覚えつつも中国に対して無力感を覚え始める台湾人が増えており、アメリカへの期待感が否定的なものになっています。

まとめ:存在感増すシャープパワー

ここまでシャープパワーについて中台関係を代表事例に説明してきました。シャープパワーは中国やロシアによる得意技で自分たちに有利になる環境を作り出すための浸透工作です。

蔡英文政権に入り、シャープパワーを用いた対台湾圧力は強まっています。蔡英文が「一つの中国」に対して曖昧な姿勢を見せたからです。蔡英文による諸改革と「国民創造」の試みは中国共産党からの不信感を買っています。そのため中国大陸から軍事圧力、対国交国圧力、非公式関係国圧力、対国際機関圧力、対国際企業圧力などが行われています。

2017年からの分断工作強化は中共の「伝統的」工作とシャープパワーが合わさった形で発揮されました。中共の「伝統的工作」とは統一戦線工作、メディア買収、経済的誘惑の3つです。

最近では特に経済面が強化されています。知識人、退役軍人、退職公務員工作などが積極的に行われています。しかも台湾自身の国内での分裂傾向がこのような中国による浸透工作の浸潤のしやすさを助長しています。

ネット空間が広がり続ける現代社会ではシャープパワーの存在感は上がり続けていくでしょう。新しい概念を知ることでこの世界の解像度が上がれば幸いです。