広島へ向かう新幹線は僕にひどい仕打ちをした

広島へ向かう新幹線は僕にひどい仕打ちをした

芭蕉名句

「月日は百代の過客にして、行きかふ人もまた旅人なり」と松尾芭蕉は詠んだ。そんな芭蕉も「旅人」たちのスピードがこんなにも早くなる時代が来るなんてことは想像もしなかったのだろう。

乗車準備

ここはJR東日本新横浜駅の中にある東海道新幹線乗り場の待合室。

ひっきりなしに、新幹線の往来を伝えるアナウンスが響き渡る。こんなにも多くの列車が発着してしまっては自分の列車がどれなのか。危うく間違えてしまいそうだ。

待合室にいる人種としては、サラリーマンが大半だ。週末を迎え、出張に向かうのか。それとも、東京出張の帰りなのか。初夏にしては高すぎる気温が、彼らのスーツをより一層むさ苦しくさせている。

彼らの晴れない表情をみると、のうのうと観光旅行に行くのが少し申し訳なくなるが、数年後の自分を投影してしまい、じわっと汗をかく。暑さのせいだと思いたい。

飛脚登場

なんとか自分が乗る新幹線のアナウンスを聞き分け、待合室を出て、ホームヘ上がる。新幹線のホームはどことなく古めかしさを感じるが、ホームに金属の柵が頑丈に設置されているからだろうか。

新幹線に乗るという行為自体は何回も行っており、新鮮味を感じることはない。強いて新鮮味のある点をあげるとするならば、今回の旅が私一人で行われるということであろう。この歳になっても、恥ずかしながらひとり旅というものをしたことはなかった。

今回の目的地は広島。新横浜からは新幹線で約3時間30分。新幹線に乗っているだけでついてしまうのであるから、旅の難易度としては限りなく低い。そこにハードルの高さを感じていた過去の自分を問い詰めてやりたいくらいだ。

白い車体を滑らかに滑らせながらホームに進入する N700系の姿はさしずめ現代版飛脚といったところか。その現代の飛脚は「夢の超特急」と呼ばれた50年前の0系からは大きな変貌を遂げ、「素早く移動できる日常の移動手段」としての地位を確立しつつある。新幹線を当たり前のものにしてきた人々の努力が偲ばれる。

新横浜の駅には4つの新幹線ホームがあり、ホームが息をつく暇はない。

こんなにも多くの新幹線が同時並行的に走っているということは日本を俯瞰して見れば、背骨のように白い車体が連なって見えるのであろう。その「背骨」は文字通り日本を支えている。

霊峰富士

新横浜駅を出発すると、列車はあっという間に富士山の麓へと歩みを進めていく。東海道新幹線のハイライトである「富士山」

しかし霊峰・富士を目の前にしても、列車は見物のために減速運転!なんてことはしない。文明が産んだ無慈悲なのだろうか。富士に別れを告げるのは悲しいが、その名残惜しさをシャットアウトするように富士山を通りすぎると列車は長いトンネルに入ってしまう。

富士との別れを惜しむ間も無く、列車は僕の目線をより西へ西へと向けさせてくる。新幹線のスピードが圧倒的なせいだ。再三申すように今回の目的地は広島である。

都市広島

今回の目的地である広島はどんな都市なのだろう。平和都市、地方中枢都市。頭の中ではわかっている。そんな言葉に縛られない広島の息を感じることができたらいいな。

そんなことを思っていたら、車内で食べたカツサンドのせいで僕は眠ってしまった。

目を覚ませば、そこは「新大阪」であった。「新大阪」で列車は東海道新幹線から山陽新幹線へと名前を変え、西国への歩みを続けることになる。広島まではあと1時間ちょっとだ。

続く