【書評】『ルポ トランプ王国』〜本当の「壁」はどこにあるのか

【書評】『ルポ トランプ王国』〜本当の「壁」はどこにあるのか

世界がひっくり返った2016年アメリカ大統領選挙。大方の予想を裏切り、共和党・ドナルド=トランプが勝利した。

党の候補者選びの段階から相次ぐ放言・暴言を繰り返し、泡沫候補と見られていた彼がいつの間にか党候補になり、ついには大統領になった。

来年の11月、彼は大統領再選を見据えている。

Official portrait of President Donald J. Trump, Friday, October 6, 2017. (Official White House photo by Shealah Craighead)

なぜ彼は勝ったのだろう。彼に頼りたくなるアメリカ社会の思いとは。

丁寧な現地取材からトランプ勝利の背後にあるアメリカ社会の実相を映し出すのが「ルポ トランプ王国」だ。

なぜトランプが勝利したのか?をトランプ個人に見出すのではなく、トランプを支持する人々に寄り添うことで暴いていく。

取材の中で見えてきたのは超大国・アメリカの栄光を享受してきたミドルクラスの「恐怖」だった。

世界最大のミドルクラス社会を作り出したアメリカ。戦後、国内需要が旺盛な鉄鋼や自動車産業などがアメリカ中部を中心に発展してきた。

そこで働く労働者は「まともに働けば親の時代よりも生活がよくなる」アメリカンドリームを確かに掴んでいた。

彼らの生活が暗転するのは1990年ごろ。グローバル化が声高に叫ばれ、国内資本は人件費が安いメキシコや中国へ逃げていった。

アメリカンドリームの中心・五大湖周辺も今や「ラストベルト」として落日の象徴にまで転落した。

筆者が指摘するようにトランプを支持する人たちは「貧困」ではない。「貧困」に落ちこぼれていく恐怖が彼らを支配している。

周りを見れば、ドラッグ漬けになる者、英語を話さない(不法)移民たち、借金まみれの学生たち…アメリカの中にある社会不安の要素は数えきれない。実際に中年白人労働者の寿命はここ20年で縮んでいる。

その不安をすくい取ったのがトランプだった。最初から「暴言」キャラを作ってしまえばこっちのもん。いくら暴言を言っても「トランプだから」とたいした失点にはならない。筆者が言うように「究極のリスク管理」だ。

異様な熱気に包まれる選挙戦も他の候補者とは大違い。現場で感じたトランプへの熱気とそれとは対照的なアメリカ労働者の悲哀。

戦後唯一の超大国として世界をリードしてきたアメリカ。それを支えてきた労働者たちの誇りがトランプを生み出したとも言える。なんとも皮肉だが、トランプを生み出したのは社会の構造的な問題だ。なかなか解決しそうにはない。

最長で後5年。我々はトランプの一挙手一投足一ツイートに振り回されるだろう。

改めてトランプの力の源泉を見ることでアメリカ社会の高い高い分断の「壁」を見てみよう。その「壁」は彼がメキシコ国境に建てようとしている「壁」よりはるかに高いのだから。