金与正が後継者は本当か?金正恩重体説の後のシナリオを考える

金与正が後継者は本当か?金正恩重体説の後のシナリオを考える

北朝鮮・金正恩朝鮮労働党委員長が重篤で危険な状態にある−−米・CNNから超ド級のニュースが世界を駆け巡った。実際の金正恩委員長の健康状態はどうなのか全くわからない。金正恩重篤説以降、未だに北朝鮮当局は同氏の動静を伝えていないからだ。

世界の注目は金正恩氏の実際の健康状態に加えて今後の北朝鮮の行方だろう。世界各国が新型コロナウイルス拡大への対応に切羽詰る中、北朝鮮リスクまで出てきてはまさに泣きっ面に蜂といったところだ。

今後の北朝鮮情勢を検討する上で金正恩氏の健康状態が鍵になることは間違いないが、現時点では同氏の健康状態の良し悪しを断定するべきではない。

しかし、金正恩委員長の健康問題は北朝鮮国家体制の不安定さをもたらすファクターとして今後も継続的に検討されていくだろう。

そこでこの記事では北朝鮮・金正恩政権が抱え続ける最高指導者の健康問題にどのように向き合うのかに関するシナリオを少し検討してみたい。

今回の金正恩健康不安説で明らかになったことは言うまでもなくすべての権力を握る金正恩が倒れることは必然的に北朝鮮国家体制の不安定化をもたらすことである。だからこそ北朝鮮国家体制では建国以降2回の世襲ステップで慎重な後継者選びを行ってきた。

金正恩健康不安説が表面化している以上、前例に倣えば金正恩政権も「後継者」を準備するしかない。その候補として上がるべきはこれも前例に倣えば、金正恩の子どもということになる。

日本ではあまり知られてない、というよりも北朝鮮自身が隠しているからだろうが、金正恩には3人の子どもがいるとされている。しかしいずれもまだ幼く政治ができる年齢ではない。では金正恩はリスクヘッジとして誰を後継者として選ぼうとするのか。

この問いに答える前に検討しておきたい北朝鮮特有のロジックがある。それが「白頭山の血統」論理だ。「白頭山の血統」とは金正日から金正恩へと世襲される際に、世襲を正統化する論理として打ち出されたものだ。

金日成から続く「白頭山の血統」こそが北朝鮮を教え導いていくにふさわしい選ばれた血統であると主張するのが「白頭山の血統」論理の骨子だ。これによって北朝鮮では金日成から金正日、金正恩へと続く金王朝が実現してきた。

そこで金正恩が金与正氏への後継体制構築を考えている推論することはそこまで不自然なことではない。先述した「白頭山の血統」論理を適用するならば、金正恩の次の最高指導者は金日成から続く「血統」を引き継いでいなければならない。

しかし、現時点では仮に金与正が後継者だとしても実際にどのような論理を立てて金与正を後継者として正統化するかについては明瞭ではない。

北朝鮮の最高指導者になる以上は国家・軍・党のすべての権力を掌握し、偶像崇拝を進めなくてはいけない。金与正は現時点では党政治局員候補に止まっており、実際に権力を掌握するまでには至っていない。

金与正が実際に後継者として立ち現れるならばそれなりのステップが必要だ。北朝鮮は歴史上2回、実際の後継者問題を解決してきた。

経験則に照らし合わせてみれば金与正が後継者だと断定するにはあまりに早い段階だと言わざるをえない。しかし、もし金正恩の健康状態が不安定で金与正に権力を移譲する場合にはこれまで見てきたように数段のステップが必要だ。

まず3つの権力機関を掌握しなければならない。次に金与正が後継者としていかにふさわしいか正統化するロジックが打ち立てられなければならない。最後に偶像崇拝を行わなければならない。

さらっと「3つの権力機関を掌握しなければならない」と書いたが、通常これは非常に困難なステップだ。このステップを実現するのに金正日は20年ほど。金正恩は4〜5年をかけている。後継者問題を安定的に解決することは想像以上に困難なのだ。

金与正が後継者だ!と叫ぶことは簡単だろう。実際に彼女の政治活動は今年に入ってから活発化している。金正恩がある程度信頼して仕事を任せているのも事実だろう。

しかし、それと最高指導者になるのとではまったく次元が違う話だ。金正日は20年以上、金正恩でさえ4〜5年は後継体制を作るのに費やしている。

北朝鮮がこれまで作ってきた論理を元に考えれば金一族の誰かから後継者が生まれることになるだろう。最高指導者が健康問題を抱える以上、リスクヘッジとして後継者指名を急ぐことも考えられる。

しかし、そのことがすぐに現在の金正恩のような立場に金与正を押し込むわけではないのも事実だろう。最高指導者になるためにはそれなりのステップが必要だ。金与正が。あるいは他の誰かがその最高指導者へのステップを登っているのかをウォッチしていかなければならない。