【書評】『韓国 現地からの報告ーセウォル号事件から文在寅政権まで』(ちくま新書)

【書評】『韓国 現地からの報告ーセウォル号事件から文在寅政権まで』(ちくま新書)

今日の記事は先日ちくま書店から出た『韓国 現地からの報告ーセウォル号事件から文在寅政権まで』の書評です。

面白かったですね。

概要

作者は伊東順子さん。失礼ながらこの本を手に取るまで存じ上げませんでした。

著者紹介の欄には「編集・翻訳業」との書かれています。1990年に韓国へ渡り、現地での生活を続けられているようです。

本書は副題にもあるようにセウォル号事件から文在寅政権までの韓国の社会や政治を現地に住む日本人ならではの視点で書き綴っています。

章立ては以下の通りです。

  • 第1章 不信ーセウォル号事件 2014〜15
  • 第2章 政変ー政治参加する人びと 2016〜17
  • 第3章 歓喜から混乱へ 文政権のジレンマ 2018〜20
  • 第4章 韓国の教育現場から 日韓どちらが生きづらい?
  • 第5章 旅、友だち、それぞれの日韓

第1章から第3章は韓国社会を揺るがした大きな事件を起点として激動する韓国社会の実像。日本人が抱く韓国像との現地でのギャップが鮮やかに描かれます。

4章と5章はそれぞれ「教育」と「旅」のテーマを元に筆者自身の韓国での活動を踏まえながら韓国での観察がなされます。

全体を通じて筆者は日本人が韓国に対して過剰反応し、自らのイメージを押し付けることに冷ややかです。

「実際に観察しないで何がわかるのか」のようなサバサバ感が伝わって来て痛快です。特に親韓も嫌韓も嫌いな私のような人にはぴったりな人と言えるでしょう。

一方で

「私はK-POPアイドルさえ追いかけられればいい。韓国の大統領の名前も知らないし興味ない」

「韓国は日本に対して嘘をつき続けている。そんな国とは断交だ!」

のような知的に怠慢な姿勢を持つ人には合わないでしょう。いやそもそも知的に怠慢な人が新書を手に取るはずがないので無問題か。

以下ではもう少し本書の特徴を書いてみようと思う。

韓国への目線ープラトンかアリストテレスか

本書の中で大きく共感した部分がありました。少し引用しましょう。

日本人には「好きな」韓国がある

そうだ。そうなのだ。

日本人は韓国が「好き」だと思う時がしばしばあります。

それは必ずしも「親近感を持っている」という意味での「好き」ではありません。

とかく朝鮮半島に対しては日本はイデオロギーに分断されがちです。

上にも紹介したようなK-POP好きな女子たちは韓国のことが大好きです。

その一方で「ネトウヨ」と呼ばれる人たちは韓国のことが大嫌いです。

感情的になる背景にはそれぞれが持つ韓国の「イデア」があります。「イデア」とは哲学者・プラトンによって提唱された概念です。

この世界には目に見えない真理が存在する。それをプラトンは「イデア」と呼びました。

韓国に対する「イデア」を持ちがちな日本人。

「韓国はファッション・コスメ・アイドルにあふれたコンテンツの国」

「韓国は嘘つき国家。反日左翼が蔓延る日本の敵だ」

それはもはや「思い込み」のレベルを超え、自分の脳内で「理想の韓国像」を作ってしまっています。

それを「好きな韓国」と言った筆者の感性にあっぱれでした。

筆者の姿勢はプラトン的なものではありません。あえて哲学者で例えるならアリストテレス的と言えばよいでしょうか。

アリストテレスは自然科学の祖とも言われる人で徹底的に観察と実験を重視した人です。

筆者は現地に暮らす強みと「対話が好き」の性格を生かして、軽い対話から韓国の実像を描こうとします。

対話と観察。本物の情報はそこに宿ります。僕も足を使って情報を取りに行こうとも思わせてくれました。これは少し蛇足かな。

まとめ

韓国は永遠の隣人です。10年後も100年後も朝鮮半島は日本の隣にあるでしょう。だからこそ韓国を眺める視点を養っておくことは無駄とは思えません。

筆者は『中くらいの友だち』とのタイトルの韓国に関する情報をまとめた雑誌を刊行しています。

『中くらいの友だち」に込められた気持ち。それは「サイテーなところもあるけどいいとこともある。そんなところが魅力だよね」

だから『中くらいの友だち』。すごい素敵なコンセプトだ。

別に好きにならなくていい。嫌いでもない。でもなんとなく僕らにとって大切な国なんだ。本書を読んでこんなスタンスの人が増えることを願っています。

蛇足

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